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MJC(マリンジャーナリスト会議)が選んだ2023年マリン十大ニュース

MJC(マリンジャーナリスト会議)が選んだ2023年マリン十大ニュース

2023年12月25日

マリンジャーナリスト会議では、2023年の主なマリン(レジャー/舶用/海洋/漁業等)関連ニュースの中から、気になったニュース10テーマを選出。マリン十大ニュースとして選定しました。

 

1位
全国的な暑さ、11月頃まで続く…夏の異常気象「気圧のシーソー」が原因(9月)
気象庁は1日、2023年の夏(6~8月)の日本の平均気温が、1898年の統計開始以降で最も高かったと発表した。最高気温が35度以上の「猛暑日」の日数は全国38地点で最多となり、過去151年で猛暑日が一度もなかった北海道函館市で初めて記録されるなど、異例ずくめだった。全国的な高温傾向は9月以降も続く見込みとされていたが、実際に高温の傾向は11月まで続く『異常気象』となった。猛暑の主要因は、太平洋高気圧が猛烈に強まり、日本列島に張り出したこと。フィリピン海の海面水温の上昇や、例年より北を流れる偏西風が上空に暖かい空気をもたらした影響が大きいとされる。特に、フィリピン海で台風などの低気圧の活動が強まった結果、北東の太平洋高気圧が発達したとみられる。この二つの低気圧と高気圧が影響しあう現象は「気圧のシーソー」と呼ばれる
が、これほどはっきり現れたのは珍しいということだ。

 

2位
脱炭素社会を目指す研究、製品開発がマリン業界で次々と(4月)
2023年4月、英国のArchipelago Expedition Yachts社(英国)が、洋上風力発電分野の次世代船舶設計のパイオニアであるChartwell Marine社(英国)とコラボレーションし、「Archipelago zero.63 catamaran(アーキペラゴ ゼロ 63 カタマラン)」のプロジェクトを発表した。このボートは、メタノールを燃料とすることでゼロカーボンを実現するもので、プレジャーボートとしては史上初のものとなる。8月にはヤンマーホールディングスのグループ会社であるヤンマーパワーテクノロジー株式会社が、船舶の脱炭素化を実現する「舶用水素燃料電池システム」を商品化。今後、まずは水素の補給が比較的容易な沿岸を航行する旅客船や作業船、貨物船などへの適用を提案していく。5月には、ホンダ、ヤマハ、カワサキ、スズキという自動二輪メーカーの大手4社が、小型モビリティ向け水素エンジンの基礎研究を目的とした「水素小型モビリティ・エンジン技術研究組合(HySE:Hydrogen Small mobility & Engine technology)」を設立に向け、経済産業省の認可を得た。この組合では、二輪車、軽自動車、小型船舶、建設機械、ドローンといった小型モビリティ用の水素エンジンの開発のために、各社が持つリソースを結集していくという。

 

3位
男女混合470級の岡田/吉岡ペアが世界を制す(8月)
8月にオランダのハーグで開催された「アリアンツ セーリング世界選手権」は、五輪セーリング競技の全種目を実施する、4年一度のビッグレガッタ。今大会はパリ五輪の国枠獲得もかかった大一番であったが、新たに男女混合の新種目として生まれ変わる470級で、日本の岡田奎樹(トヨタ自動車東日本)/吉岡美帆(ベネッセホールディングス)が他を圧倒する強さを見せ、見事優勝。同じ表彰台の3位には、磯崎哲也/関友里恵(ヤマハセーリングチーム)が立ち、日本勢が金と銅という結果を残した。岡田/吉岡のペアは帰国後行われた全日本選手権でも優勝し、470級では今のところ代表に最も近い位置にいると目される。なお男女470級の最終選考は2月末からスペインのパルマ‘(マヨルカ島)で行われる470級世界選手権大会、同じくパルマで3月末から開催されるプリンセスソフィア杯の2レガッタとなる。岡田/吉岡、磯崎/関の他、髙山大智/盛田冬華、吉田愛/吉田雄悟の4ペアが代表の座を争う。

 

4位
ガソリン価格の高騰が続き、運送業や漁業などへの影響が深刻化(9月)
ガソリン価格の高騰が続き、運送業や漁業などへの影響が深刻化。8月末には、レギュラーガソリンの全国平均価格が15年ぶりに最高値を更新した。生活の足として欠かせない地方の車所有者からも悲鳴が上がるが、影響は海の現場でも。漁業者からも「漁に出たとしても赤字になりかねない」との声も上がっている。多くの漁船の燃料として使用される重油も補助金の対象だが、価格の高騰は止まらない。もちろんプレジャーボートユーザーにとっても海を遠ざける一因ともなる深刻な問題だ。

 

5位
加山雄三さんが「またもどこかで歌うつもり」と引退撤回に意欲(4月)
歌手・俳優、また音楽家、画家としても活動している若大将こと加山雄三さん。昨年の6月、2022年内でコンサート活動から引退することを発表し、大晦日の紅白歌合戦が人前で歌うことは最後だと思われていたが、86歳の誕生日である4月11日、東京・銀座の加山雄三ギャラリーで文化放送のラジオ番組の公開収録にゲスト出演した際、「まだチャンスはある。どこかで歌うつもり。どこかは言わないよ」と“引退撤回”を匂わすコメントを出し、ファンを喜ばせた。加山さんは毎朝、スクワット20回を日課にして健康を維持しているといい、約1時間、上機嫌にトークを交わし、エンディングではフランク・シナトラの「マイ・ウェイ」を口ずさんだ。

 

6位
水上スキー全日本選手権大会で高校2年生が日本記録を塗り替える(11月)
11月2日木曜日から11月5日日曜日の4日間、千葉県君津市で開催された第69回桂宮杯全日本水上スキー選手権大会において、中津市マリンスポーツクラブの中村成さん(中津南高等学校耶馬溪校2年)が、見事最年少で総合優勝を成し遂げた。水上スキーの全日本選手権は、スラローム、トリック、ジャンプの3競技が行われ、オープンクラス(年齢別のクラスもある)においては3種目合計の総合優勝者に桂宮杯の栄誉が贈呈される。その3種目の中で、中村成さんが特に得意とするトリック競技では5,850点の高得点を記録。19年ぶりに日本記録を更新(これまで5,810点)。中村さんはトリック競技の最後に難易度の高い技を決めて、雄叫びと共に大きなガッツポーズを見せ、また、表彰式では「2歳の時から水上スキーを始めてきた。家族やここまで見守ってくれたスキーヤーの皆さんに感謝したい」と挨拶し、会場を沸かせた。

 

7位
GLOBE40〈MILAI〉がレースを完走!世界一周を成し遂げる(4月)
ダブルハンド世界一周ヨットレース「GLOBE40(グローブ40)」に出場した〈MILAI〉(クラス40)が、さまざまな困難を乗り越え、フランス・ロリアン沖にフィニッシュした。スキッパーを務め、世界一周に挑戦したのが鈴木晶友さん。チームオーナーであり、第1レグと第4レグ、そしてこの最後のレグ(アゾレス諸島→フランス)でコ・スキッパーを務めた中川紘司さんの2人が、笑顔でロリアンに到着した。GLOBE40は、全長12mのヨットを2人で操り、世界7箇所の港を巡る8レグのコースで地球を一周するレース。2022年6月にモロッコをスタートし、総距離55,000Km!約9ヶ月の期間をかけ、フランスのロリアンのフィニッシュラインを切った。

 

8位
船外機が回収したマイクロプラスチック判別技術をスズキと静岡大学が共同研究(7月)
スズキではマイクロプラスチック回収装置を開発し、2022年7月より一部の船外機へ標準搭載している。回収物には、マイクロプラスチックのほかに砂や木くず、微小な海洋生物などが含まれ、分別と分析の効率改善が課題となっていた。そこでスズキは、静岡大学とマイクロプラスチックの判別技術に関する共同研究契約を締結。プラスチックに吸着して着色させる特性を持つタンパク質を使用し、回収したマイクロプラスチックに吸着、着色させることで、正確かつ短時間で判別が可能となる。この技術を実用化すればプラスチックの回収量や種類を可視化でき、海洋プラスチックごみ削減の取り組みをより身近に感じられるようになるはずだ。

 

9位
尾崎香代さんが日本人女性として30年ぶりにヨットで世界一周(11月)
オーストラリア在住の尾崎香代さんが、セーリングによる単独世界一周を成し遂げた。2022年6月15日に、オーストラリア・ブリスベンを出発。8月にダーウィンを発ってからはノンストップで南アフリカのリチャーズ・ベイまで、52日間を走り続けたという。要所で寄港しながら、西回りで地球を一周し、2023年11月7日にブリスベンに帰港した。日本人女性として最初に単独世界一周を成し遂げたのは、1991〜1992年の今給黎教子さん。今給黎さんは無寄港での達成だった。以降、30年間、複数人での世界一周を達成した女性セーラーはいるが、単独で世界一周を成し遂げた日本人女性はいない。

 

10位
東京大学ヨット部出身の米田あゆさんが、宇宙飛行士に(2月)
文部科学省と宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、日本赤十字社医療センター外科医の米田あゆさん(28)と世界銀行上級防災専門官の諏訪理(さん(46)の2人が宇宙飛行士候補者として内定したことを発表した。米田さんは向井千秋さん、山崎直子さんに次ぐ、24年ぶり、3人目の日本人女性宇宙飛行士で、現役の宇宙飛行士の中では最年少。日本赤十字社医療センターに務める外科医だが、東京大学医学部時代は同大の運動会ヨット部ディンギー班に所属していた。会見では「医者としてのキャリアが、宇宙空間で人体に変化が起こったときに、生かせるのではないか、生かしていきたいと考えております」と語っている。

 

 

【10大ニュース講評】

 

さまざまなジャンルでスターが誕生
中村剛司 マリンジャーナリスト会議・座長
オリンピック・セーリング競技において日本悲願の金メダルに最も近い男、岡田奎樹(トヨタ自動車東日本)さん。東京五輪では、外薗潤平さんと組み男子470級日本代表に。次回2024年開催のパリ五輪でミックス(男女混合)種目となる470級のペアに岡田さんが選んだのは、同じく東京五輪女子470級代表だった、吉岡美帆さん(ベネッセホールディングス)。この岡田奎樹/吉岡美帆の470級ペアの快進撃が止まらない。470級ミックスで、プリンセス・ソフィア杯優勝、オランダ・ハーグの世界選手権優勝、アジア競技大会優勝、全日本大会でも優勝と、連戦連勝の航跡を披露。この話題が3位に。
セーリングの話題といえば、ダブルハンドによる世界1周レース、グローブ40へ出場した鈴木晶友さんがキール破損のトラブルを跳ね除け完走、3位の成績でフィニッシュ。コ・スキッパーの中川紘司さんたちと成し遂げた偉業が7位。鈴木さんといえば、ミニ6.50による大西洋単独横断レース、ミニトランザットへの挑戦から今回のクラス40へのステップアップというキャンペーンであるが、彼が見せた航跡をたどり、現在4人の日本の若者たちが2025年のミニトランザット出場の準備をしているという。これも今後のトピックとして期待したい。
さらに、オーストラリア在住のソロセーラー、尾崎香代さん。2022年6月にブリスベンを発ち、2023年11月、ブリスベンに帰港。見事、単独世界一周を果たした偉業が9位に。これは、今給黎教子さん(無寄港)に続く、日本人女性2人目の単独世界一周となった。もうひとり、東京大学体育会ヨット部出身の米田あゆさんが、宇宙飛行士となった話題が10位に。ついにヨット乗りが宇宙へ! これもまたうれしいニュースだ。
加山雄三さんは、セーラーでありボーターとしても有名であるが、引退撤回という手放しでうれしい話題が5位に。毎年秋に逗子マリーナで開催される若大将カップでは、レース後の表彰パーティーで披露されてきた加山さんのライブが中止されて久しいが、2024年はもしや復活? 楽しみに待ちたい。
1位となったニュースは、夏の異常気象について。MJCメンバーには気象予報士もおり、「気圧のシーソー」と呼ばれる現象から猛暑日が過去最多となったことの衝撃を、多くのMJCメンバーがフォーカス。これに付随し、環境問題への注目も高まっている。脱炭素社会を目指す事業に関するニュースが2位に。メタノール燃料のカタマランや、ヤンマーパワーテクノロジーの水素燃料電池システム、ホンダ、ヤマハ、カワサキ、スズキ4社による「水素小型モビリティ・エンジン技術研究組合」設立などは、マリン関連メディア以外にも多く取り上げられたことは、とても意義深い。
そして、ガソリン価格高騰が4位に。海運、漁業などへの影響は深刻なものであった。15年ぶりの最高値更新だという……。また、スズキが開発したマイクロプラスチック回収装置付き船外機が回収したゴミの分別と分析が静岡大学との共同研究で進んだ、というニュースが8位に。
特に記憶に残ったのは、6位の水上スキーの話題。MJCメンバーには日本水上スキー・ウエイクボード連盟監事もおり、また対象となった高校生、中村 成さんをインタビューした面々も。中村さんが打ち立てた、スラローム、トリック、ジャンプの3種目合計5,850点は、19年ぶりの日本記録を更新(これまで5,810点)となった。また、彼の爽やかな人物像にも注目が集まり、新たなスターの誕生にしばし盛り上がった選考会議であった。
*
私がセーリングメディアの人間であるため、マリン10大ニュースとなると、ついついセーリングの話に注目してしまいがちになるが、あらためてさまざまなジャンルのマリンジャーナリスト、マリン関係者の皆さんと議論できたことは今年も有意義であり、とても楽しい時間だった。

 

マリン業界が直面する多様な課題と可能性
三上己紀 マリンジャーナリスト会議会員 
この講評を書いている現在、12月上旬です。季節は冬にもかかわらず、半袖のポロシャツですごしています。この暑さ、冬とは言えませんね。
今年の10大ニュースのトップは、環境、特に気候変動に関するニュースでした。地球温暖化の影響は年を追うごとに身近になってきました。2023年を振り返ると、やはり「暑かった」というひと言に尽きるでしょう。海を仕事場として、また遊び場として過ごすことの多い私たちにとって、「地球温暖化いよいよ」です。
ニュースには「マリン」と環境と気候の変化への対応が最も顕著に現れました。特に1位の異常な気象に関するニュースは、海洋と気候の密接な関係を浮き彫りにし、海洋生態系の保全がいかに重要であるかを私たちに考えさせてくれます。脱炭素化を目指した研究や製品開発(2位)は、エコロジーとテクノロジーの融合を通じて、マリン業界がサステナブルな未来への道を切り開いてゆくことを目指していることを伝えてくれました。
一方で、エネルギーについても4位にガソリン価格の高騰がりました。マリン業界におけるエネルギー問題の深刻さは、脱炭素だけでなく資源循環や直接的にはその価格という経済問題としても対応を迫ってきています。燃料価格の高騰は、海運業や漁業に与える経済的な影響が大きく、業界全体が今後のエネルギー政策を注視する必要性、さらには脱化石燃料のエネルギー源へのシフトへの対応が求められつつあると言えるでしょう。
さらに環境汚染として広く認知された「マイクロプラスチック」問題もニュースになりました。8位のマイクロプラスチック判別技術の共同研究は、マリン業界でも本格的に環境保全の重要性を認識して技術開発への取組みが行われていることを示したニュースでとして特筆すべきものがあります。海洋汚染への対策は、海で働き、楽しむ者すべての責任であり、技術革新はその鍵を握っていると言えるでしょう。
もちろん明るい話題も多くあがりました。我が国のマリンスポーツにおける国際的競争力の高さ誇るべきものです。3位の男女混合470級の世界制覇や、6位の水上スキー全日本選手権で高校生が19年ぶりに日本記録を更新したことなど、日本のマリンスポーツ選手の国内外での目覚ましい活躍は広く賞賛されることです。これらの成果は、選手のひたむきな情熱、その能力の向上、技術の革新など、関係者の総合力が結集し、それが国内外のマリンスポーツにおける日本の強靭な競争力として表れていると言って良いでしょう。
さらに、チャレンジスピリットもすごいという他ありません。海は冒険です。7位のGLOBE40〈MILAI〉の世界一周完走や、9位の尾崎香代さんの単独世界一周は、その体現そのものと言えます。マリンスポーツの魅力と限界を超えた冒険を誘うものであり、まさに偉業です。同様の意味と捉えて良いか、ぜひご本人に伺いところですが、10位に選ばれた米田あゆさんの宇宙飛行士選出は、心躍るニュースでした。地球からさらに広い宇宙へと、冒険の水平線を大きく広げてくれたのではないでしょうか。
2023年のマリン10大ニュースは、マリン業界が直面する多様な課題と将来への可能性を示す内容となりました。環境と気候の変化への対応、マリンスポーツの発展、エネルギー問題への取り組みなど、それぞれのニュースは海の現状を反映しているものばかりで多岐にわたっていました。選外のニュースも同様です。日本でたくさんの人たちが海と真摯に向き合っている姿を伝えてくれました。これらのニュースは、重要な指標となり、マリン業界のサステナブルで多様性に富んだ方向へ進化していくことを期待させてくれるでしょう。
そして最後に「加山雄三さんの引退撤回」が5位にランクインしたことを挙げておきます。「若大将」は、海の魅力を本当に多くの人たちと結びつけてくれています。これからもずっとずっと舵を握りつづけてください。「若大将」は永遠です。